前回は、構築を開始する前の準備についてお話をいたしました。
準備を十分におこなうことで、システムを動かす方の意識の向上と構築の進行をスムーズに進める上での必須であることをご理解いただく内容でした。
それを踏まえていよいよ長い構築が始まります。
私自身もHACCPチーム責任者を経験しておりますのでよくわかりますが、構築は多くの場合一人で進めていくことも多いと思います。
指導者の多くはみんな巻き込んで作るのだと力説されますが、新しい取り組みに消極的な方もいれば、俺は関係ないとだんまりを決め込む方もいて、口は出すけど汗(考える苦悩)はかかないということもありましょう。
皆さんと一緒でないとシステムが動く時、教育を開始するとき非常に大変です。(皆さんの理解が得られないという現実が責任者を襲いましょう)
ですから、私たちは一緒に動くためのご説明を大事にしておりますし、下準備のための教育も行い同じ方向を向いて頂けるように根回しをしております。
この点も現場を知る私どもだけの構築支援の最大の安心をご提供できていると自負しております。
小さい事務所ですが、小さい事務所だからこそ「一人一人の皆さんにご理解いただけるように時間をかけてご説明が出来る」と考えております。
目次
1、農場HACCP認証 準備編 ~何を準備するのか
2、農場HACCP認証 構築編1 ~何から始めますか(このページ)
3、農場HACCP認証 構築編2 ~構築の本丸
4、農場HACCP認証 教育しましょう ~何を教えましょうか
5、農場HACCP認証 検証と完成 ~最後の調整をして申請しましょう
さて、いよいよ構築が始まります。
今回はその1として、何から始めていくのかということをお話します。
この分野は一部の事務所等も公開しておりますが、現場目線でお話しできるのは私どもだけと自負しておりますし、ブログ等にも惜しまずその技法を公開しております。
いわゆる手の内と言われる分野でしょうが、これから取り組みしたい方になかには多くの予算をかけることが出来ない等様々なご事情により情報を探し続けている方もいます。
私たちは、出来るだけ公開することで、当事務所での契約に至らないとしても農場HACCP認証を取得されることで畜産業が盛り上がることを第一に考えております。
是非今回も最後までお読みください。
1、構築は 経営者、チーム員、チーム責任者それぞれにより進め方が違う
認証基準は、7章からなる認証基準に基づき構築を開始します。
認証基準のテキストを見ながらご覧いただけますとわかりやすいと思います。
お手元に基準書がない場合は、
中央畜産会よりダウンロードしていただき予めご用意ください。
今回のタイトルのように何から始めるのか、というくらい悩む構築スタートになります。
順番通りに構築することも良いのですが、長期間の構築となるのでなるべく効率的に進めたいものです。
ですから、以下のように進めていくと良いでしょう。
①経営者の構築
経営者は、第2章経営者の責任に該当する項目を構築していく必要があります。
第2章の1は経営者のコミットメントが基準の中にあります。
つまり、準備編にご説明しましたが、経営者の皆さんは「安全で安心な家畜・畜産物を生産するためには、私たちは何が出来てどのように行うのか」という安全と安心という基準で自社製品を管理して提供することを再確認して、基準に従って文書を作ります。
その中には、「HACCPシステムを取り入れて衛生管理システムを構築し、維持し継続的改善を行い必要に応じて更新します。」という一言は必ず入れます。
その他、衛生管理方針を定め、会社の中長期の方向性を文書にします。
具体的な例として、
1、私たちは、畜産農場として安全で安心な畜産物をお客様にお届けし、健康維持や社会に貢献できるよう努力いたします。
2、私たちは、農場HACCP認証基準に基づいた衛生管理システムを構築し、維持し継続的改善を行い必要に応じて更新します。
3、私たちは、衛生管理方針や家畜衛生や食品衛生に関する法令・条例・規則を遵守いたします。
4、私たちは、安全で安心である畜産物をお届けするために、全従業員に衛生管理方針を周知徹底いたします。また衛生管理の重要性を理解させ畜産物の食品安全に関する知識の維持向上を図ります。
5、私たちは、お取引先やお客様からの外部情報や苦情に真摯に向き合い安全安心のために改善をし、社内情報や外部情報を共有し改善を行います。
6、私たちは、全ての皆様に弊社の安全安心な畜産物を供給することを周知させていただくため衛生管理方針やその他の情報をホームページに公開し、フードチェーンの一翼を担いお客様にお伝えいたします。
2019年10月5日
のぐ畜産ファーム
代表nogutikusan
上記のように作成します。必ず作成した日付、会社名、代表者の氏名を書きます。氏名を記入する際は直筆が良いのが農場HACCP認証の基本的な考えです。(ちゃんと見て確認したのでサインしたという意味になるからです)
機械文字にする場合は後で印鑑を押さなければなりません。
(2)次に組織図を作ります。
人数が少ない会社では「経営者」「各部門長」「部門担当」という構図になりましょうし、部門長は経営者兼務になることもありましょう。
大事なのは、組織図を作る際に各担当はどのような責任を与えているか確認しながら作ると良いでしょう。
後にふれますが、責任の範囲を決めて頂く際にこの組織図は大変重要です。
何でも担当者が責任を負うと言うのは畜産業だから良いと言う慣例では農場HACCPでは良いとは言えません。
ですから、部長や次長、課長、主任等の肩書にこだわる必要はありません。
ありのままの職位を書きその職務はどこまでの権限を与えるのか書きましょう。
例えば、私自身の職位はHACCPチーム責任者です。
職務は衛生管理システムの確立と実施、従業員への教育、維持・管理と更新することであり、左記実施するための権限を有している。と書きます。
(3)特定事項(緊急事態の際に対応するマニュアル)への備えを書き出します。
緊急事態に備えて、畜産物への信用が失墜しかねない事項(抗生剤の使用等により休薬期間中に出荷した場合の措置(法令違反)や有機農産物として出荷していたが別物を誤って出荷したとき(製品表示の不適切))や、
法定伝染病発生時の対応、家畜の原料が起因する家畜への危害が発生する場合、自然災害(台風・地震・火災)発生時の対応方法を作ります。
消費者と生産する家畜を基準にして考え、それが法令に違反する場合、品質問題に発展した際大きな問題になる場合、病気(法定伝染病含む)や家畜に危害が及ぶ場合(災害)について予め対応する方法を第三者に説明します。
安全安心であるためには、問題なくそのように管理すればよいのですがそうもいかない場合も多々あります。
現場運用で見られる品質異常の出荷や休薬期間中の出荷は、一歩間違えば法令違反で社会問題化します。近年は各県の買い上げ検査等から問題が露呈し製品回収と社名公表、取引停止、信用の著しい低下というペナルティが課されます。
そうならないためにも、製品が外に出ない方法を確立するのです。
多くの方はその時の臨機応変な対応とすることが多いでしょうが、第三者から見ればただの行き当たりばったりとしか見えません。それは手順もなくのらりくらりと対応しているしか見えないのです。
つまり、緊急事態なのにその時々で対応することはあり得ないのです。まずは製品の回収、廃棄処分とそれしか選択肢がないため、その時々で方法は変わらないのです。
変わるとすれば社会通念上疑念となるケースが多いと感じます。
多い例として出荷元から苦情が来たが謝っておいて問題がでてからどうするか決めることが臨機応変であると言う例です。
この場合問題が出てからではすでに火消しに大変になっている時で信頼が崩れ去ったときといえます。
ただの時間稼ぎか問題意識の欠如とみなされかねません。
ですから、事前にこうしておくと決めるのです。
それにより普段は活用しない特定事項ですが第三者は事故防止策をよく検討しており安心あると考えるのです。
この考えを持つことが大事です。
以上の他にも認証基準に要求されているものがあります。見ながら作成していきましょう。
(4)製品説明書を作りましょう。
製品説明書は、HACCPチームが構築しますが、製品保証も兼ねている大事な書類ですので私自身は経営者が考えるべきとご提案しております。
②HACCPチーム員が構築すること
HACCPチームの意味は準備編でご説明しました。HACCPチーム責任者と同様大事な存在です。基本的に3、4章の構築はチーム員の知見を活かして作ります。
多くはHACCPチーム責任者に丸投げすることが多いと思いますが、後に大変な苦労が訪れます。
要になる3,4章の構築は一番時間がかかり手間がかかります。また知識を多く必要とする章ですから知見のある責任者に丸投げする傾向があるのでしょう。
しかし詳細を理解されないままシステムが動き始めると多くは、現場との温度が大きくなりめんどくさい、やる意味が分からない、時間の無駄という意見が出ます。
現実農場長からも同意見をいただいたこともあり、責任者として大変苦痛だった記憶があります。
構築の詳細は次回にお話しましょう。
③HACCPチーム責任者が構築すること
責任者は一番大変だと思います。
私自身も指名された際頑張るぞと言う意気込みがあり、寝る間も惜しんで構築文書を作りましたが、1ページの作成に30分1時間とかかり思いのほか時間がかかり気力をそがれましょうが、焦らず少しづつ進めましょう。
仕事は逃げません。むしろどっしりと座って責任者であるあなたを待っていることでしょう。
さて、そんな責任者はシステムを動かすうえで重要な教育第5章と検証し最新版に更新する6章、出来上がった文書をわかりやすく保管する基準7章とシステムの責任を負います。
まず第5章教育ですが、HACCPシステムが出来上がったら皆さんに知ってもらい、必要な作業方法や記録の仕方等いつもの仕事と違う場合はその目的と方法を教えます。
システムを動かすということは、毎日の作業を熟知していただく必要があります。そのためそのように出来ているのか力量評価をしなければなりません。
人事考課の参考にすると言う方もいますが、それは従業員に誤ったサインを出してしまい問題と言えます。
あくまでも、HACCP上の作業が出来ているのかの評価なので、効率的に利益を出すような方法と考えてしまうのは従業員の委縮を招きます。
そして、システムを理解してもらうためにも、年間教育スケジュールを作りその他通りに進めましょう。
主に、大事なことを年1回又は2回設定したり、衛生管理目標の進捗を検討するために年2回又は4回設定したりと、無理にテーマを設ける必要はありません。
また、力量評価の結果出来るだけ早く独り立ちできるようにスケジュールを入れ込むのも良いでしょう。
第6章は内部検証を行いシステムの有効性を判断することを求めている章です。
内部検証は経営者が該当農場所属の者以外を指名し検証させます。多くは第三者(部外者)を検証員として迎え入れて客観的判断を求める方が多いのも実情です。
検証結果をHACCPチーム責任者に報告し効果的な方法を構築するのが仕事です。絶えず良い方法を見つける意識が大事です。
第7章では文書や記録表の保管についての基準があります。
出来上がった文書をどのように保管するのか、更新があった場合どうするのか等最新にするためには適度な更新があるのが実情です。
このため、文書をどのように最新に差し替えて、古いものをどう廃棄するのか手順を定めます。
定めることで、手順通り進め新旧版が混在しないようにし、文書を容易に廃棄できるようになります。
文書量が多い場合、廃棄の方法が定まっていない場合ズルズルとなりなんだかわからない管理になり大変です。
ですから、適切に管理できる方法を事前に決めてその通り進める。これが一番の間違いのない方法です。
次回以降もお話しますが、作成する文書には必ず署名しなければなりません。
作成した人、その文書を承認した人といくつかルールがあります。
その中、署名の多くは機械文字で代用することが多いはずです。それはパソコンで文書を作成するためそうなるからです。
未入力にしておくと誰が作成したのか分からず後々面倒なので署名欄には機械文字で記載するのですが、先ほど2章の中でもお話しましたが、農場HACCP認証では署名は直筆に限ると解釈されており署名とみなされません。
このため、多くの場合「印鑑登録簿」を作成し、この人のみ使用する印鑑をあらかじめ決めておきます。機械文字の脇に押印することで署名に替えることが出来るというルールにしておきます。(この人専用の印鑑を押したのだから、この人が確認したうえで押印している(署名している)というものです)
いかがでしょうか。
それぞれの責任者はそれぞれの構築に責任があることがお分かりいただけたと思います。
全て細かくお話すると何時間もかかるため割愛部分も多いのですが、多くは認証基準書を読んでいただくとよくわかるかと思います。
そして、ピンポイントでお尋ね頂きたい個所を専門家に問うことで正しい答えが見つかり容易に進めることが出来ることでしょう。
次回は、HACCPチームの構築(主に第3,4章)をお話いたします。
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